きっと、これが幸せ
多分きっと、こういうことをずっと望んでいたんだと思う。
ざわめきは耳に心地よい程度で、ただ静かな音楽が奏でられる。
パーティだっていうのに好奇の視線も何もないのは当然だけど変な感じ。
それが『普通』に感じるっていうのはちょっとヤだなと思うけど。
「休憩か?」
「ええ」
PAの正装姿のアポロニウスに笑って応えて、グラスを傾ける。
深い色のワインはエド大叔父さんのとっておきらしい。
ま、あたしはそんなに詳しくないから、どれだけ凄いのかわかんないけど。
今宵のパーティ会場は我が家のホール。
シオンのお披露目パーティだから、大勢駆けつけたがるものだけど……城の周囲の迷いの森怖さに、招待客以外はまったく近寄れず参加者は少なめ。
準備期間って言うか、前祝みたいな今日のパーティの参加者は、家族とごく近い親戚プラスアルファくらい。
だからこそこうやってお酒飲んでられるんだけど。
「本当に、ドレスを着ているときには別人に見えるな」
「まあ酷い」
くすくすと笑ってみせれば、いつもと勝手が違うからか黙ってしまうアポロニウス。
「こんな失言する方には、もう一杯勧めましょうか?」
今日は給仕の仕事もしている薄が、いかにも企んでいますって顔でワインボトルを軽くあげて示す。
こんなイタズラ……乗らないはずがない。
「そうね……新しいグラスを用意して差し上げて?」
「仰せのままに」
「待て私はあまり酒は」
嬉々として動く薄を止めようとするアポロニウス。
だけど、そんなこと許す訳ないでしょ?
「あら。お嫌い?」
左手を頬に当てて小首を傾げて問い掛ける。
表情はもちろん、心底不思議そうに見えるように。
そしたら案の定アポロニウスはばつが悪そうに顔をそむけてぼそぼそ言い訳する。
「自分の限度がわからないから、醜態さらすわけにいかないだろう。
……師匠もいるのに」
あーなるほど。
アポロニウスのお師匠様こと姫は、うちの親戚だったりする。らしい。
だからこの会場にも無論いて、別のソファでのほほんとひいおばあ様やおじーちゃんたちと話してる。
確かに頭の上がらない人の前では、醜態さらしたくないよね。
それであたしが引き下がる訳ないんだけど。
どう言いくるめようか考えてたら、タイミングよくグラスを持って薄が戻ってきた。
「限界がわからないから尚の事知っておいたほうが良いってものです」
「良い機会ですわよ?」
「良くないっ」
並々と注がれたグラスを無理やり手渡されて不服そうなアポロニウス。
してやったりといった表情の薄。
視線を変えれば、いろんな人から手荒い祝福を受けてるシオン。
多少引きつりながらも、その表情は晴れやかで。
揃っている姿なんて何年ぶりだろうって感じのとーさんとおかーさん。
にこにこ笑顔のおじーちゃんが楽しそうにヴァイオリンを取り出してきて、それに合わせておばーちゃんがピアノを奏でる。
紡ぎだされた音楽はとても耳慣れたもの。
無言のリクエストに、姫はふんわり笑みをこぼして歌いだし、ひいおばあ様が倣う。
こういう雰囲気っていいなぁと心から思う。
ちょうどワンフレーズが終わって、サビに入るところであたしも歌いだす。
のりのりで楸ちゃんが参加してきて、呆れながら椿も口ずさむ。
エド大叔父さんがはやし立てて、シオンが歌ってしまえば男性陣も逃れなくなって、最後は皆で大合唱。
お酒の入ったせいか、ふわふわした気分そのままに。
多少音程やリズムがずれてもご愛嬌。
こんなパーティなら何回やっても楽しいね。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
ナビガトリアでリクエストを頂いたので、特にひねることなく幸せそうな一コマを。
ややこい親戚は来てない、仲の良い身内だけのパーティなら。きっとこんな感じかと。
歌ってる曲のイメージとしては、元々は某剣帝のテーマだったというあの歌です。
……分かる人いるのか?