オトナとコドモの境界線
「なんですかこんな時間に!」
まずい相手に見つかった。梅桃が最初に思ったのはそれだった。
聞きなれた金切声。
いつもいつもヒステリックに騒がせる原因が自分たちであることは分かっているが、それでもこのタイミングは拙い。とってもまずい。
言われる理由は分からなくはない。
繁華街から少し外れた、普段は静かな住宅街――ただし深夜。
こんな場所に女子高生が一人で歩いていれば、担任なら怒るだろう。
ちょっとコンビニまでの買い物帰りといったラフな装いでいるのも怒りに拍車をかけてると思う。
「学校でも言ったでしょう?! 女性を狙った強盗が出てるって!」
心底心配そうな先生に、梅桃も仕方なく返す。
「ええ、聞きました。……だから、なんです」
小声ながらも念を押すように言えば、教師は怪訝な顔をして見返す。
その眼をじっと見つめて、とりあえず歩かなければと先を促した。
「どこへ行くの?」
「帰ります……先生のお家はこちらでしょう?」
「あのね」
「送ります。今日はもう無理でしょうし」
呟いた言葉に応じるように、息を吸う音。怒鳴るための前準備。
「おとりになり損ねました」
そこへ言葉を投下すれば、声は上がらず足音が止まった。
「先生?」
「あ、ああ、大丈夫よ」
応じて歩く教師は戸惑いを隠せないのだろう。
沈黙のまま歩むことしばし、ややあって切り出された。
「いつもこんなことしているの?」
「いつもは追いかける側です」
ぽつぽつ話をして先生の家まで行き、槐に迎えに来てもらうことで、梅桃初めてのおとり捜査は終わった。
「ゆすらちゃんどうだった? おとり捜査」
「深夜だったもんなー。ひっかかるとは限らないけど緊張したろ?」
「どうだった? やっぱり怖いもんか?」
「こらこら」
翌朝、それぞれ期待を表情ににじませて問いかけてきた仲間たちを見て思う。
この中で、間違いなく大人と言えるのはアポロニウスだけだ。
でも、日常生活の常識やらではちょっと頼りにならない、見た目だけの大人。
自分たちは当然だけど子供で、でも仕事の上では一人前で扱われる。
何がどうってわけじゃないけど。
「なんだかフクザツ」
「「なにが」」
答えの意味が分からなかったのだろう。
普段は似てない従姉弟は、息ぴったりに聞き返してきた。
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凶悪犯を追いかけるよりマシだからと、結構いろんなことをさせられる子たち。
もちろん護衛はちゃんといます。